戦略的基礎研究推進事業

研究領域「環境低負荷型の社会システム」

 

 

研究実施中間報告

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合田素行

農業総合研究所、上席研究官

 


1.研究課題名

農山村地域社会の低負荷型生活・生産システムの構築に関する研究

 

 

2.研究実施の概要

本研究では、農村地域において、できるだけ環境負荷の少ない地域社会システムをつくり出すために、「自足型社会」(Self-contained Society)という概念を提出し、いくつかの地域で具体的にその実現の方法を提示し、その適用の可能性を検討する。

 

 

3.研究実施内容

テキスト ボックス:  ここでいう自足性とは以下のような概念である(図1)。これまで農村社会は,物質的にもエネルギー的にも,また社会的・経済的にも都市に従属してきた。そのことが一方において効率的な農業や便利な生活を生み出してきたが,それとは裏腹に一部で環境負荷の増大を招いてきた。「自足性Self-Containedness」はそうした傾向に対して,新たな社会システムを導入することで自立した農村社会を作り出そうというものである。理念的には,地域内の物質・資源のできるだけ有効な利用を目的とするが,一つの手がかりが地域に賦存する有機性資源である。本研究では,これに着眼することで,

(i)窒素,リン等の物質の循環的利用

(ii)化石燃料の利用削減、富栄養化物質の排出削減

(iii)農業資材、農産物の自給度の増大

テキスト ボックス:  が達成される新たな地域社会を構築する。

テキスト ボックス:  研究の全体の流れは図2の通りである。点線部が作業を示している。具体的な作業を進める地域としては、成果をできるだけ普遍的なものとするため,島嶼型、中山間地域、農業中心(畜産)地域というわが国では代表的と思われる3つの地域を選択した(表1)。Tでは,地域の問題と物質循環の把握を行い、Uでは,適正技術の検討、Vで社会・経済的な検討を行う。3つの地域それぞれについて、物質循環からみた現状把握とそれに対する適正技術を検討・評価し、社会経済的検討を行っているところである。

 

(1)国内の有機性資源の循環的利用研究

@     島嶼型―鹿児島県沖永良部島

テキスト ボックス:  島というスケールでマテリアルフローの把握を試みるとともに、堆肥、自給飼料および堆肥化施設で特徴づけられる環境保全型システムを導入した場合の、農業生産の環境負荷(窒素)および経済的費用の変化を推定した。

テキスト ボックス:  沖永良部島における生産、流通、消費および廃棄・再利用の各フェイズを通した物質循環とエネルギーの流れの量的な把握を行った(図3)。また、環境負荷および経済的費用の変化の推定については、肥料を20%削減、肥料の自給率を10%まで高める計画を考えてみると、堆肥費用の増加は61.091.3百万円になると推計されるが、それは化学肥料を削減することにより減少する費用の119.9百万円で相殺可能であり、環境保全型農業システムへの移行は経済的観点から実現可能であることが示された(図4)。

 

A     中山間地域―福島県三春町

三春町では、農業副産物、林業副産物、生活廃棄物、畜産廃棄物の4つにわけて有機性資源の賦存量の計測を行うとともに、水稲栽培、酪農・畜産、畑作、一般家庭、浄水場、焼却・埋め立て場についての季節毎のLCAを行った。

三春町の有機性資源の賦存量については、林業副産物の量が特徴的で、その活用が望ましいことが明らかにされた。また、LCAについて、温暖化インパクトの季節変動は、一般家庭のインパクトがもっとも大きく算出され、焼却・埋め立て場が次に大きなインパクトを見せた。水稲栽培は小さなピークが秋に見られる。富栄養化へのインパクトの季節変動についても、一般家庭のインパクトがもっとも大きく、他に水稲栽培の小さなピークが秋に見られる。

 

 

 

B     農業中心(畜産)地域―北海道士幌町

テキスト ボックス:  農業副産物、林業副産物、生活廃棄物、畜産廃棄物の4つにわけて有機性資源の賦存量の計測を行った。また、地域の主要な構成要素である一般家庭、水道施設、ゴミ焼却施設、畑作、酪農畜産、食品加工工場、澱粉工場についてLCAを行うとともに、バイオガスプラントの導入について検討を行った。

6 士幌町の主要要素の富栄養化インパクト

 

5 士幌町の主要要素の温暖化インパクト

 
テキスト ボックス:  有機性資源の賦存量については、畜産廃棄物の量が特徴的で、その活用が望ましいことが明らかになった。また、LCAについて、士幌町の温暖化インパクトは食品加工工場と澱粉工場で大きく、特に澱粉工場は秋にインパクトが集中し(図5)、富栄養化インパクトでは(図6)、酪農畜産の糞尿によるインパクトが通年で大きく、秋に澱粉工場のピークが見られる。化石燃料や化学肥料をバイオガスプラントのガスや消化汚泥に替えることにより、地球温暖化インパクトについては半減することができるが、富栄養化については12分の1しか削減できないことがわかった。

 

C 生ごみの資源循環型社会システムの研究

事例として、長野県臼田町・山形県長井市をとりあげ、自足的社会の成立条件を明らかにするための実証研究を行った。

臼田町の製産センターから出荷される堆肥の利用は、主体となる農家向け出荷が長期的に見れば低落傾向にあるが、その大きな原因は、製産堆肥の質の問題、つまり、設備の老朽化に伴って発酵、乾燥等が十分でないことや生ゴミ収集に使用される新聞紙と紙袋が発酵途中の残渣として堆肥に混じることなどである。

  生ゴミ堆肥化のコストについては、その大きな部分を人件費が占めていることがわかった。臼田町の生ゴミ処理経費の内訳を見ると、主なものは堆肥センター人件費、収集委託料、電力・修理費等であり、また、長井市における生ゴミ処理に係る経費については、大きいのは施設の運転・維持費部分と人件費、委託料である。また、堆肥の販売単価は、袋詰はバラの約4倍であり、その多くが委託販売に伴う運送費である。

  農業との関連では、臼田町の農家が市場販売している有機無農薬の春レタス、バレイショや有機無農薬米の栽培面積・出荷農家数は、減少傾向にあるが、農業労働力の減少と高齢化の進行が大きく影響している一方で、有機農業は、農家女性や高齢農家などを担い手として、その裾野を維持している。

また、臼田町や長井市の有機農業はまだ小規模なものにとどまっているが、これには有機農産物の販売体制の確立の有無が影響している。

 

 

 

 

(2)海外との連携研究

バイオガス化、バイオマス利用の2つの技術については、国内では着手された段階に過ぎず社会システム面での検討事例が少ないことから、海外連携調査として、それら技術を先進的に導入した諸国での経験を検討することが必要となる。

バイオガス化については、平成10年度に約400のバイオガスプラントがあるドイツにおいて、平成11年度には集中型バイオガスプラントが20施設あるデンマークにおいて調査を行ったところであり、平成12年度は、もう一方のバイオマス利用について、木質バイオマスがエネルギー供給の14.5%を占めるスウェーデンおよびエネルギー作物栽培に対する補助制度が整備されているイギリスにおいて調査を行った。

ヨーロッパ諸国の状況から、バイオマスのエネルギー利用が進んでいる背景には、@国のエネルギー政策における明確な利用目標、A環境税の導入による再生可能エネルギーの相対的安さ、B再生可能エネルギーによる電力の電力会社による買い取り義務、Cバイオマスエネルギー利用に対する補助金・融資、D家畜糞尿や有機性廃棄物に対する厳しい環境規制などの要因があると言える。

 

 

4.類似研究の国内外の研究動向・状況と本研究課題の位置づけ

 諸外国では,バイオマス利用が進んだ国があり,海外との連携ではそうした国々の情報を収集している。新しい社会システムとしての研究としては,イギリスのサリー大学レーフシュテット教授の社会リスクとしてのバイオマス利用といった社会学的研究,ドイツのミュンヘン工科大学のハイセンフーバー教授による各種農業連携を重視した農学的研究があり、個々の情報では有益なものが多いが、本研究のように,異なった有機性資源を有する地域について,それら資源の活用と環境負荷の削減や農産物自給等の問題に総合的に取り組んでいる例は見られない。

 

 

5.今後の研究の予定、研究成果の見通し

 3つの地域それぞれについて、物質循環からみた現状把握とそれに対する有効な適正技術を検討・評価し、現段階では、技術的に有効性と実現可能性が確かめられたものについて、その実現のための経済的な評価を行っているところである。今後は、研究の重点として、それらの地域社会での受容可能性にも十分な配慮を払いつつ、バイオガスプラントやバイオマスプランテーションの経済的検討を行い、農山村における自足型社会構築支援のための地域診断システムの開発に向けて、社会システムを考慮した技術オプション評価手法を提示していきたい。それぞれの地域の今後の方向を以下の図7に示した。

テキスト ボックス:

6.研究実施体制

@研究者名(所属、役職、事業団が雇用・派遣した研究者を含む。)

 

氏 名

 

所 属

 

役 職

 

参加時期

合田素行

農林水産省農業総合研究所農業構造部

上席研究官

平成9年11月〜

(平成 年 月)

生源寺真一

東京大学大学院農学生命科学研究科

教授

平成9年11月〜

(平成 年 月)

田村賢治

地域社会計画センター調査研究部

部長

平成9年11月〜

(平成12年3月)

片桐幸雄

日本道路公団総合研修所

次長

平成9年11月〜

(平成 年 月)

遠藤誠作

福島県三春町上下水道課(全国地方行政研究会)

課長

平成9年11月〜

(平成 年 月)

安東誠一

千葉経済大学

教授

平成11年4月〜

(平成 年 月)

長濱健一郎

農政調査委員会

主任研究員

平成11年4月〜

(平成 年 月)

宇野雅美

食品需給研究センター

研究員

平成11年4月〜

(平成 年 月)

田上貴彦

農林水産省農業総合研究所

(農業技術会館)

CREST研究員

平成9年11月〜

(平成 年 月)

両角和夫

東北大学大学院農学研究科

教授

平成9年11月〜

(平成 年 月)

大村道明

東北大学大学院農学研究科

助手

平成11年4月〜

(平成 年 月)

西澤栄一郎

法政大学経済学部

助教授

平成9年11月〜

(平成 年 月)

坂内久

農村金融研究会

主任研究員

平成9年11月〜

(平成 年 月)

吉迫利英

農村金融研究会

主任研究員

平成9年11月〜

(平成 年 月)

淵田嘉勝

農村金融研究会

研究員

平成9年11月〜

(平成10年3月)

尾中謙治

農村金融研究会

研究員

平成10年4月〜

(平成 年 月)

應和邦昭

東京農業大学国際食料情報学部

教授

平成10年7月〜

(平成 年 月)

木原久

農林中金総合研究所基礎研究部

副部長

平成10年7月〜

(平成 年 月)

神山安雄

全国農業会議所

編集長

平成10年7月〜

(平成 年 月)

志賀永一

北海道大学大学院農学研究科

助教授

平成9年11月〜

(平成 年 月)

松田従三

北海道大学大学院農学研究科

教授

平成9年11月〜

(平成 年 月)

近藤巧

北海道大学大学院農学研究科

助手

平成9年11月〜

(平成 年 月)

伊藤繁

帯広畜産大学

教授

平成11年4月〜

(平成 年 月)

菊地尊治

有限会社ゼロ

代表取締役

平成11年4月〜

(平成 年 月)

A研究項目

農山村地域社会の低負荷型生活・生産システムの構築に関する研究

 

7.招聘した研究者等

 

氏 名(所属、役職)

 

招聘の目的

 

滞在先

 

滞在期間

 

 

 

 

 

 

8.戦略的基礎研究推進事業による主な研究成果

(1)論文発表

両角和夫・合田素行・西澤栄一郎・田上貴彦・宇野雅美、自足型社会としての島嶼地域・離島における生産・生活の存立条件―鹿児島県沖永良部島を例にして、農業総合研究(52巻、4号、1998年)

神山安雄、地域循環農業をめざして―@長野県臼田町、A宮崎県綾町、B山形県長井市、農政調査時報(509〜511号、1999年)

応和邦昭・坂内久・神山安雄・木原久、資源循環型社会システムの比較研究―長野県臼田町と山形県長井市における生ゴミの堆肥化を中心に、財団法人農村金融研究会調査資料(NO.208、1999年)

木原久、農業を軸とする資源循環システムの形成―生ごみ堆肥化と地域農業の持続的発展、農林金融(52巻、9号、1999年)

西澤栄一郎・田上貴彦・合田素行・両角和夫・宇野雅美、鹿児島県沖永良部島の水、土地利用、食生活―「自足型社会」構築へ向けての予備的考察、島嶼研究(1号、2000年)

大村道明・両角和夫・合田素行・西澤栄一郎・田上貴彦、北海道士幌町における農業と関連産業のLCA、日本農業経済学会論文集(2000年度、2000年)

合田素行、これからの農村社会のビジョンを求めて―農山村における低負荷型生活・生産システムの構築、農業および園芸(75巻、10号、2000年)

Tagami, T., Goda, M., Morozumi, K., Nishizawa, E. and Uno M., Designing an environmentally friendly system in an island: estimation of the environmental load from the agricultural production and the economic cost of the system, Proceedings of the Forth International Conference on EcoBalance, 2000

Oomura, M., Morozumi, K., Goda, M., Tagami, T. and Nishizawa E., A life cycle assessment of agricultural activity for designing a self-contained society: a case of Shihoro town, Hokkaido, Proceedings of the Forth International Conference on EcoBalance, 2000

 

(2)口頭発表

  @学会

     国内 8件,  海外 0件

   Aその他

     国内 0件,  海外 0件

 

(3)特許出願

     国内 0件,  海外 0件

 

(4)その他特記事項


(別紙)

[ご自由にお書き下さい]