T4-1 世界の育林経営の動向とわが国におけるビジネス
化の展望

餅田治之
林業経済研究所
今日、世界の主要林業国では、天然林を対象とした採取
的な林業生産から、人工林を対象とした育林的林業生産へ
とシフトし、育林経営が主流になりつつある。わが国の場
合、人工林への移行はすでにかなり以前から進められてい
るが、日本における人工林化への動きは、地球規模で見れ
ば天然林を対象とした採取的林業がまだ主流であった時期
に開始された。ということは、日本林業は、世界がまだ天
然林採取林業の段階にあるとき、すでに人工林育成林業を
実施していたわけであるから、コスト競争力に劣る国産材
が外材に圧倒されてしまったのは無理のないことであっ
た。しかし、今日、世界がおしなべて人工林育成林業の段
階に突入し、林業経営を取り巻く経済的条件は世界的に似
てきた。そうした条件の中で世界の育林経営はビジネスと
して展開するようになってきているわけであるから、日本
においてビジネスとしての育林経営が成立していないの
は、自然条件の違いももちろんあるが、経営のあり方につ
いても再度考え直す必要があるのではないだろうか。 
 T4-2 ハンガリーの農廃地造林
堀靖人1 ・大塚生美2・餅田治之3
1林野庁森林整備部研究指導課・2森林総合研究所東北支所
・3林業経済研究所
世界的に木質バイオマスのエネルギー利用の気運が高
まっており、木材のカスケード利用に加え、短中伐期の早
生樹種への関心が高まっている。こうした機運や関心はハ
ンガリーでも例外ではない。本報告では、木材生産に占め
る燃料用材の生産割合が比較的高く、短中伐期の早生樹種
の植林が行われてきたハンガリーをとりあげる。ハンガ
リーにおける木質バイオマス利用と早生樹種への関心の高
まりの典型的な動きとして、限界農地へのポプラをはじめ
とした早生樹種の造林が試みられており、その面積は4,
000 ha に達している。その背景として、ハンガリーの気候
風土のみならず、国外へのエネルギー依存状況、EU およ
び国内の自然エネルギー政策、資本主義化移行にともなう
1990 年前後の農業改革の影響、現行の農地制度があげられ
る。課題としてはコストであり、とくに収穫をいかに効率
化するかである。さらに不確定要素としては、今後のEU
や国内の自然エネルギー政策の動向、借地料の動向、農地
制度の動向があげられる。
 T4-3 ニュージーランドにおける中小規模所有者による
森林管理の現状と課題

安村直樹1・立花敏2
1東京大学大学院農学生命科学研究科附属田無演習林
・2筑波大学
本報告ではニュージーランド(NZ)における中小規模(1,
000 ha 未満)の森林所有者を対象に所有目的、経営方針等
の把握を行い現状と課題を明らかにする。1990年代の第3
次造林ブームの造林主体は大規模層と中小規模層であり
(柳幸2006)、植林されたラジアータ松(RP)が伐期を迎え
つつある中で中小規模層の動向把握は重要性を増してい
る。だが、NZ の中小規模層の経営動向の把握はJulie ら
(2011)に限定される。そこでNZ 農家林家協会に被験者
選定を依頼する等し、2014 年2 月と11 月に中小規模層17
名を対象に聞き取り調査を実施した。内訳は都市在住の投
資家6 名、北島中南部で農林業を営む11 名である。彼ら
の人工林面積は0∼630 ha であり、浸食管理や家畜保護の
ために管理される森林もあるが、基本的に多くは資産形成
を目的とする。従ってその動向は木材価格や管理費用等の
林業を取り巻く環境に左右される。市況によっては伐期を
大きく前倒す等の経営の可変性に富む。それだけに今後に
良い見通しをもてなければ再造林されない。他方、大規模
層も含めて木材生産に27 セント/トン課税し、RP の品種
改良等の研究開発を行う取組が2014 年から始まり注目さ
れる。
 T4-4 アメリカにおける所有形態別林業経営動向
大塚生美
森林総合研究所東北支所
アメリカの私有林は、全米の総森林面積の6 割を占める。
近年、伝統的な垂直的統合林産会社に変わり台頭してきた
機関投資家が主たる出資者のTIMOs・REITs は、同じく
総森林面積の1 割弱になる。多くはFamily に区分される
個人有林やTIMOs・REITs 以外の法人によって所有され
経営がなされている。法正林の観点からみると、企業有林
からの年間生産量は概ね最大値で推移していると推定され
ており、今後は飛躍的な生産量が望めない一方で、木材生
産ポテンシャルは個人有林の方が高いという指摘もある。
だが、個人有林は、彼らの総面積の約2 割が75 歳以上層で
所有されていることや、所有の目的が森林を愛でること、
財産、自然保護、自宅敷地の一部、林地投資、狩猟や釣り、
レクリェーション、農業の延長、木材生産収入と多様であ
ることから、個人有林のすべてが林業経営の対象というこ
とにはならない。他方、TIMOs・REITsや企業、大規模森
林所有者は、伐採・再造林という点では一定の評価を得て
いる。以上のようにアメリカにおいても林業経営の諸相は
多様である。そこで、本テーマ別セッションではアメリカ
における所有形態別の林業経営動向について報告した
 T4-5 企業の育林経営ビジネス参入に関する研究:社有
林を基軸とした新展開

奥山洋一郎1・大塚生美2・餅田治之3
1愛媛大学農学部・2森林総合研究所東北支所
・3林業経済研究所
対象としたS林業は全国に社有林を所有しており、住宅
産業から木材流通まで幅広いビジネスを展開する企業であ
る。同社の社有林は鉱山備林として出発した経緯もあり、
木材生産を第一目的として所有されたものではないが、現
在における生産量も企業規模を考慮すると積極的な伐採で
はない。近年は社有林経営の経験を通して育林技術の新規
開発(苗木生産、造林方法、獣害対策等)しており、これ
らの成果を新たなビジネスとして事業化に取り組んでい
る。また、森林情報解析の技術の高度化も実施しているが、
これらの開発成果を基にして地方自治体等の森林経営コン
サルタント業務も新規に参入している。これらは企業社有
林を木材販売収入もしくは自社流通の在庫としてだけでは
なく、知的財産を創出する場として利用している点で注目
すべき事例である。森林施業集約化が推進されて事業の大
規模化が進む中で、コンサルタント業務の位置づけは議論
すべき課題である。これら社有林を基軸とした育林経営ビ
ジネスの新展開について、地域林業に与える影響について
考察する。
T4-6 北海道十勝地方における主伐と再造林との関係に
関する一考察

立花敏1・安村直樹2
1筑波大学生命環境学群
・2東京大学大学院農学生命科学研究科附
属田無演習林
北海道の代表的林業地帯である十勝地方を事例とし、森
林所有者や種苗業者への聞き取り調査を2011 年10 月と
14 年11 月に行い、2010年代前半における主伐と再造林と
の関係について分析と考察を行った。北海道では一般民有
林の皆伐面積に対して人工造林面積が下回っており、十勝
地方でも然りである。2000年代後半について、道内の再造
林未済地は地域的分布として十勝地方等の人工林地帯に多
く、その背景として木材価格の低迷に加えて森林所有者の
高齢化や後継者不在問題の深刻化が指摘されている(立花
ら2010)。2010年代前半においても同様の状態が続いてい
る(柿澤ら2014)。こうした森林所有者に関わる要因に加
え、苗木に関する問題も顕在化している。森林所有者から
は、ニーズに対して充分な苗木供給がなされない量的な課
題や、活着が悪い等の苗木の質的な課題が指摘されている。
拡大造林期を経て人工造林面積が減少する中で、この問題
に対して苗木を生産する種苗業者の減少、緑化木や採種へ
の事業シフト等の種苗業者の変化がその主たる原因であ
る。主伐面積が増えようとする時期において、種苗業者の
育成や気候変動に対応した種苗・育苗に関わる技術開発が
必要となっている。
 T4-7 林産業者による林地取得の実態
幡建樹1 ・山田茂樹2・大塚生美2・餅田治之3
1有限会社ラックコンサルティング事業部・2森林総合研究所・3林
業経済研究所
全国素材生産業協同組合連合会傘下の素材生産を行う事
業体へのアンケート調査結果(有効回答数266)を基に、林
地購入の実態に関する分析を行った。過去10 年間に何ら
かの理由で林地を購入した事業体は139 事業体(52.3%)で
あった。都道府県別で平均を上回ったのは、熊本県(83.3
%)をはじめ、宮崎県(77.4%)、高知県64.5%)、秋田・徳
島県(58.3%)、岡山県(57.1%)であった。林地購入の主要
な動機としては、「立木在庫を潤沢にし、安定的な事業につ
なげるため」(35.0%)、「土地ごと購入しなければ立木が手
に入らなかった」(32.5%)が特に多かった。主として伐期
に達していない人工林を購入している事業体も33.3% あ
り、将来のために立木を確保しようという意向が推察され
る。将来の購入計画についても、購入経験のある事業体で
は素材生産規模の大小を問わず「立木を買うためにはやむ
を得ない」(51.1%)、「今後も積極的に購入したい」(35.0
%)と、購入継続を示唆する回答が大半を占めた。また、
購入経験のない事業体でも約40% が同様の回答をしてお
り、今後も素材生産事業体による林地購入が増加すること
が示唆された。
 T4-8 協同組合と市場:フィンランドの経験からの洞察
山本伸幸
森林総合研究所林業経営・政策研究領域
北欧フィンランドの大規模木材産業企業体であるメッ
ツァ・グループ(Metsä Group)の事例を中心に、協同組合
と市場の関係について論じる。メッツァ・グループは、
2012 年にメッツァリート・グループから改称し、組織体制
も改めた。協同組合法を根拠とする協同組合メッツァ・
フォレストが中核となり、複数の加工部門林産企業を従え
た巨大木材産業グループである。ソ連崩壊後の1990 年代
後半以降、メッツァ・グループは海外生産拠点を増やし、
次第に国内森林資源のウェイトを減らしつつある。このこ
とは、メッツァ・グループの国際的林産企業としての性格
を強める一方で、あえて森林所有者協同組合であり続ける
意味を失わせつつあるとも考えられる。本報告では、メッ
ツァ・グループの素材生産部門に吸収された株式会社トメ
ストや欧州森林所有者連合と2012 年に組織提携した北欧
家族林業などの新知見を加え考察する。
T4-9 宮崎県諸塚村における超長期施業受委託契約の動

大地俊介・藤掛一郎
宮崎大学農学部
本研究では、林業経営の長期受委託契約に関する事例研
究の一環として、自営林業が盛んでかつ短伐期志向が強い
ことで知られる宮崎県諸塚村において耳川広域森林組合が
導入している35 年受委託契約の仕組みとその運用実態を
分析した。調査の結果、同契約の特色として、通常よりも
長いその契約期間の他に、①利用間伐や主伐などの収穫過
程を契約内容に含んでいないこと、②団地化推進策として
ではなく、あくまで自営困難になった林家のセーフティ
ネットとして運用されていることの二点が見い出された。
具体的には、同契約プランは地拵えから保育間伐までの育
林過程を一括受託するという内容であり、森林組合ではこ
のような契約を自家労働力による再造林が困難な林家や不
在村所有者を中心に提案することで、林家との安定的な受
委託関係を構築しつつあった。そして、このような契約設
計になったのは森林組合が諸塚村の地域的特性をふまえて
林家の自主性と地域的な林業慣行に配慮した結果であり、
そうすることで受委託契約の実効性を担保し得たと考えら
れる。
T4-10 森林組合への長期施業委託の意義と課題
藤掛一郎・大地俊介
宮崎大学農学部
育林経営ビジネス化の一方策として長期施業受委託が考
えられ、森林組合による受託事例は近年増えている。本報
告は宮崎県美郷町有林と日向市有林の耳川広域森林組合へ
の長期施業委託を事例として取り上げ、長期施業委託の意
義と課題を明らかにする。不完備契約の一種である形式的
権限委任モデルを援用すれば、森林所有者は林業事業体の
積極的な情報収集努力を引き出すために長期施業委託契約
を結ぶものと考えられる。事例調査からは、実際に長期施
業委託が専門的知識や現地情報の豊富な森林組合から積極
的な事業提案を引き出す効果のあったことが確認された。
一方、長期施業委託の課題として、第一に、森林所有者と
個々の事業の受託者ともなる森林組合の間に生じる利害対
立をいかにコントロールするか、第二に、長期施業委託に
よって行う林業経営の方針をいかに明確にし共有するか、
の二点が導かれた。また、私有林の場合には市町村有林以
上に所有者と森林組合との利害対立のコントロールが重要
な課題になると考えられた。
 T5-1 質バイオマスエネルギーの熱利用に関する諸論

伊藤幸男1・相川高信2
1岩手大学農学部・2三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式
会社
木質バイオマスの熱利用に関わる課題は、その規模と質
によって異なるであろうが、おおよそ以下の5 つの論点と
して整理できるだろう。1 点目は、地域の熱需要のありよ
うである。地域の気候や個別の需要パターンは熱利用の重
要な規定要因である。また、それらの面的把握による地域
熱供給への道筋などである。2 点目は、燃焼機器の適性や
改善である。欧米では既に高効率の機器が製品化されてい
るが、より日本に適した製品開発や国内メーカーの育成が
必要であろう。3 点目は、燃料供給である。地域の森林資
源や林業を背景とした各種燃料の効率的な生産・流通の仕
組みを構築することである。4 点目は、事業を具体化させ
るための地域事業体の育成とファイナンスである。モノ・
ヒト・カネの三位一体の仕組みを地域にどのように実現し
ていくのかということである。5 点目は、木質バイオマス
のエネルギー利用を通じた地域社会の将来像あるいは目標
づくりである。自分たちの暮らす地域社会をどのようなも
のにしていこうとするのかという根源的な議論を繰り返し
おこなうことの重要性と、将来像に向けた制度・政策の整
備である。
T5-2 バイオマスの熱利用は何故これほど進まないか
小池浩一郎
島根大学生物資源科学部
バイオマスの熱利用は、公的な温泉施設などで導入が進
められているが、導入後の実績をみると思ったほどの成果
をあげていない。その理由として2 点について指摘する。
ひとつは熱利用システムの不備、とりわけ蓄熱槽の欠如
である。熱供給機器をシステムとして考えると、制御の中
心に位置するのは蓄熱槽である。制御システムは需要側に
たいして熱を供給するとともに、水温が低下すればボイ
ラーに運転を要求するように設定されている。蓄熱槽を欠
いた熱供給システムはチップボイラー製造業者にとっても
想定外である。この帰結は、過大つまりより高額な初期費
用をもたらす。また、ピーク需要用の補助ボイラーによる
重油消費が総供給熱量の30% 程度残存し、導入効果を減
殺することともなっている。
もうひとつは燃料の質についての無関心であり、製紙用
よりもさらに重要なはずの含水率のチェックが供給側、需
要側双方で正しく行われておらず、機器トラブルや出力不
足を招いていることである。
これらの背景には、国等の熱利用に関する基礎情報の提
供と、自治体等の導入時の調査活動が、ともに極めて不十
分なことが指摘できよう。
T5-3 オーストリアにおける木質バイオマスの熱利用の
拡大実態

久保山裕史
森林総合研究所林業経営・政策研究領域
オーストリアにおける木質バイオマス燃料の2011 年の
消費量を見ると、燃料チップが最も多く丸太換算で1100
万m3となっており、次いで薪700 万m3、ペレット等300
万m3となっている。燃料チップのうち、700 万m3は熱供
給事業につかわれており、残りは木質バイオマス発電に使
われている。発電といっても熱電併給がほとんどとなって
おり、木質バイオマスエネルギー利用の主流は熱利用であ
るといえる。このうち、熱供給事業について調査を行った
結果、工場や規模の大きな地域熱供給では、含水率が高く、
粒径の大きな燃料に対応している出力500kW 以上の中大
型のチップボイラーを用いており、バークや林地残材チッ
プといった安価な燃料を用いているのに対して、数軒規模
の熱供給事業においては、安価な出力200kW 以下の小型
チップボイラーを用いているため、含水率が低く、粒径が
小さいため価格の高い燃料を用いていた。そうした燃料
は、土場等で1年程度乾燥させた丸太から生産されている
ことが明らかとなった。
 A03 国産材需要拡大期における「自伐林家」の経営対応
─宮崎県諸塚村を事例に─

正垣裕太郎1・川﨑章惠2・佐藤宣子2
1九州大学大学院生物資源環境科学府・2九州大学大学院農学研究

2000年代以降、国産材の生産量は増加し、需要が拡大傾
向にある。その中で、国産材の加工・流通構造の変化が指
摘されているが、こうした状況における林家の経営動向に
ついては十分に明らかになっていない。そこで本報告で
は、国産材需要の拡大を牽引する宮崎県の中でも、これま
で家族経営的林業の分析対象とされてきた諸塚村におい
て、林家の経営動向について調査した結果を報告する。
調査対象は、諸塚村K 公民館の林家8 戸である。2014
年12 月から翌年1 月にかけて、世帯構造・就業構造・経営
動向について聞き取りを行った。なお、K 公民館は、村内
の中でも自営農林業を営む世帯が多いとされ、16 ある公民
館の中で最も自伐生産量が多い公民館である。
2014 年に木材販売収入を得た林家は7戸で、保有山林を
自家労力で伐採(自伐)した林家は3戸だった。また、所
属する森林組合作業班によって保有山林を伐採した林家が
1 戸あった。こうした保有山林における伐採は、近年の需
要拡大への対応というよりも、かつての主要な収入源で
あったシイタケ生産の減収分を補うためであった。なお、
自家労力における伐採は利用間伐よりも主伐が中心で、0.5
ha/年程度の小規模皆伐が行われていた。
A04 「自伐」的森林管理による地域活性化─鳥取県智頭
町葦津財産区を事例に─

興梠克久1・田口新太郎2
1筑波大学生命環境系・2筑波大学生物資源学類
鳥取県智頭町では日本1/0村おこし運動や百人委員会よ
る地域活性化対策が行政、住民の協働によって進められて
おり、そこでは「手づくり自治区」(小田切、2009)の特徴
を備えた旧村単位の地区振興協議会および各旧村に存在す
る財産区が中核的な存在として注目されている(家中、
2013)。また、百人委員会の発案で定年帰農者や高齢者等
の副業的自伐林家を育成し、担い手のすそ野を広げる木の
宿場プロジェクトが2010 年より開始された。その流れを
受けて木の宿場プロジェクト実行委員長の発案で、葦津財
産区でも財産区有林を財産区メンバーによる共同作業=「自
伐」的に管理する試みが始まった。葦津財産区(1,270ha)
は以前は林業事業体への施業委託、立木販売を行っていた
が、官行造林地を買い戻したことを機に、定年退職者を中
心に集まった12人による「自伐」的管理(特に間伐材の伐
出・出荷)が行われ、葦津集落の財政に一定程度寄与して
いる。本研究では、「自伐」的管理に転換した葦津財産区を
対象に2014年に聞き取り調査を実施し、「自伐」的管理前
後の経営状況の変化とそれが地域社会の維持・活性化に果
たす役割を明らかにする。
A05 後発林業地における森林所有者の経営行動
伊藤勝久
島根大学生物資源科学部
林業・林産業の循環を形成するため、伐採、利用、植林・
育林のシステムをつくる重要性が指摘されている。これを
実現するには、森林経営計画作成・団地化による施業の集
約化、低コスト伐採・流通システム、木材加工の効率化、
新たな木材利用促進、担い手育成および森林経営・森林所
有者の意識改革などの多くの課題がある。本報告では、森
林所有者の意識改革を目的に、現在島根大学で実施してい
る「経営マインドをもつ革新的森林経営の担い手育成」事
業(文科省「成長分野等における中核的専門人材養成等の
戦略的推進事業」)の基本となる森林所有者の状況・意向ア
ンケートをもとに、現在のとくに後発林業地における森林
所有の問題を検討し、森林経営が真に改善される条件を検
討する。
A06 森林・山村多面的機能発揮対策交付金による小規模
な私有林管理への影響と課題:高知県を事例に

松本美香1・玉城佐和2
1高知大学自然科学系農学部門・2高知大学農学部
近年、森林・山村多面的機能発揮対策交付金を活かした
新たな小規模私有林管理の動きが見られる。当交付金は、
初年度全国で40 道府県973 団体が活動面積計4478 ha を
申請。高知県では42 団体が計440.6 ha を申請しており、
事業活用度は高い。本報告では、高知県における森林・山
村多面的機能発揮対策交付金受給事例にみる小規模な私有
林管理への影響と課題を明らかにすることを目的とし、高
知県における平成25年度の申請事業体を対象とした資料
調査とその結果を元に選定した7 団体への聞き取り調査を
行った。その結果、高知県の事業活用度の高さの背景とし
て、森林組合申請比率の高さ、民間団体の設立・活動への
行政支援の手厚さ、民間団体の相互支援関係の強さ、過疎
先進地故の危機意識の強さ、手厚い事務局対応などの影響
が示唆された。活用効果では、地域の世代間交流・相互扶
助機能の強化、地域資源の活用意識の醸成、新活動への展
開等、当初の想定外の多面的な効果の発現が確認され、地
域の小規模な私有林管理への意識変化も見られた。課題は
共通して事業継続性で、運転資金確保のための技術・設備・
資金・人材の不足に、地方の過疎地域故の課題が難しさを
加えている。
A17 農山村研究の視座と地域通貨
高野涼1・伊藤幸男2
1岩手大学大学院農学研究科・2岩手大学農学部
これまでの農山村研究では、農山村における内発的な取
り組みが報告されてきたが、急速な資本主義のグローバル
化への対抗軸を見いだせずにきた。一方で、近年地域通貨
を用いた自伐林業促進運動など、地域活性化と地域通貨を
結びつける取り組みが広がりをみせている。本研究では、
農山村再生における地域通貨の意義について考察するため
に、地域通貨に関連する経済学者ないし思想家の理論の整
理を行った。その結果、次のように整理された。近代以前
の社会では共同体内部と外部で異なる貨幣が用いられてお
り、現代の法定通貨はそれらの多様な貨幣が駆逐された結
果生じた。望ましい経済取引が実現されない一因は、貨幣
発行権の独占や利子にある。しかし、貨幣は富ではなく信
用により交換を媒介する手段であり、自分たちで貨幣を発
行することにより、地域内における財・サービスの生産と
流通を活性化することが可能となる。以上から、自伐林業
促進の地域通貨は、地域通貨に関連する経済理論や思想を
十分に踏まえているとは言い難い。しかし、持続可能で安
定した農山村経済を構築する上で、貨幣を新たな認識枠組
みで捉えなおすことは非常に重要であるといえる。
A18 地域共同組織による森林の管理・経営展開の実情と
今後
久本真大・岡田秀二
岩手大学大学院農学研究科
本研究では、地域における森林と住民の係わりを歴史的
に明らかにする一方、広く人々と森林との今日的関係構築
を媒介するものとしての生産森林組合(「生森」)に注目し、
その展開と現状について整理し、地域共同組織の現代的意
義について考察した。対象地とするのは奥州市前沢区生母
地域である。
方法としては、「生母生森」有林、集落共有林、そして個
人有林からの聞き取り調査、アンケート調査、地域の集会
や植樹祭への参加等によった。今後については「生母生森」
の地域活動や、地域で広がりをみせている森林経営計画の
受け止め方とその内容を把握し、それらがどのような意義
を持っていくのかを分析・考察した。
「生母生森」は昭和31年の設立から根強く地域活動を続
けており、さらに森林経営計画導入による収入を機に、平
成26年には累積赤字の解消も見込まれている。また、地
域の集落共有林や1ha 未満の個人有林を含んだ森林経営
計画の認定も進んでいる。さらに、施業委託をしている地
方森林組合や行政、生協や県民とも協力し、森林への認識
を高めつつある。
A19 森林経営計画策定の実態と課題─岩手県を事例と
して─
小渡太1・岡田秀二2・伊藤幸男2
1岩手大学大学院農学研究科・2岩手大学農学部
本研究は、森林経営計画制度の運用状況を岩手県内の5
事業体を中心に明らかにし、当該する地域や事業体を含む
地域森林・林業発展に如何に係りつつあるかを把握しよう
とするものである。森林整備を主な事業としていた岩手中
央森林組合は、新たな制度を通し、素材生産体制の構築を
目論んだ。伐採・搬出の体制形成には、地域の多様な事業
体等との連携に活路を見いだしている。一関地方森林組合
では、地域森林の保育作業が遅れていたことから経営計画
の策定を積極的に進め、補助金受給が組合員の意識向上と
再投資力へ繋げるべく対応している。久慈市の大規模山林
所有者O は、広葉樹更新伐制度を活用し、利用が途絶え、
展望を失いかけていた広葉樹林業に活路を見出し、事業体
としての安定を実現している。滝沢市の事業体Nは、サ
プライチェーンの経営内統合を指向することから、機械化
と搬出間伐を軸に事業量の拡大と安定化に寄与するものと
受け止めている。遠野地方森林組合の活動エリアは、その
林齢構成から間伐・主伐の移行期にある。森林経営計画は
販路の確立しているカラマツ林を中心に大きく展開してお
り、組合は川下需要と山元を結びつけるツールの性格を評
価している。
A20 都道府県林業政策と日本型フォレスターの活動─
鹿児島県を事例に─
枚田邦宏・小鯖希音
鹿児島大学農学部
日本型フォレスター(以下Fと略す)の活動は、地域の
森林管理、林業再生のために、自然的社会的条件を踏まえ
て、広域的視点を踏まえて将来像を見据えた構想を描くこ
とである。このような人材育成は、2011 年の准F 研修の
開始、2013年の認定試験により始まった。この間、市町村
森林整備計画の一斉変更、森林経営計画の策定開始により、
各都道府県において林業普及指導活動と一体となってF
活動が動いている。しかし、本来目指したF活動のレベル
には達していない。本報告では、主にFが所属する都道府
県の林業政策との関係の中に本来のF 活動の展開可能性
があるのではないかという考えのもと、鹿児島県を事例に
して現在の到達段階の確認、今後の方向性について検討し
た。鹿児島県では、森林・林業の中期計画に基づき生産拡
大を目指しており、Fの活動に期待されるところが大きい。
F 活動は、森林計画制度の変更に伴う活動と現場人材を育
成することを中心に行われており、長期的視点での活動は
一部のFの力量に寄っている。県全体の課題の中でのF
活動は、構築途上にあることが明らかになった。
A21 山元立木価格による林木・森林評価と森林計画
岡裕泰
森林総合研究所
2012年の森林資源現況と山元立木価格(利用材積あたり
円)の都道府県別の統計値から、9 齢級(41年生)以上のス
ギの蓄積量は全国で14 億立米であり、蓄積の8 割を利用
材積とすると9 齢級以上のスギの立木総額は2兆7千億円
と推計された。9 齢級以上の面積平均では83 万円/ha で
ある。40 年後の9 齢級以上の総蓄積量を初期時点よりも
減らさずに主伐生産できるのは年2100 万立米までで、そ
れに対応する立木総額は52 0億円と推定される。全国平均
では13 齢級以上になるとha あたりの立木額が100 万円
を超えるが、地域別にみると半数余りの都道府県ではどの
齢級になっても平均で100 万円/ha に達することがないと
推計された。このことから、再造林費用を考慮する必要が
なければ、スギの林木には一定の資産価値があるといえる
が、再造林費用が100 万円/ha かかるとした場合、再造林
を前提にすると、多くの都道府県で平均的なスギ人工林で
は林地・林木合わせた森林の資産価値がほとんどないこと
になる。これは政策及び税制上考慮が必要な事実と考えら
れる。
A22 京都モデルフォレストの取り組みについて─
CSR と地域協議会などを軸に拡がるパートナー
シップ
柴田晋吾
上智大学大学院地球環境学研究科
様々な問題点の露呈や紛争が起こり、「従来型の森林管
理を変えねばならない」という強い意志のもと、1992年に
カナダ連邦政府の肝入りで開始された国際モデルフォレス
トネットワーク(IMFN)は、今日まで世界各地にネット
ワークを拡げてきた。IMFN は現在世界で主流となって
きている「ステークホルダーの協働による広域の景域管理」
に早くから取り組んできており、この分野での草分けの一
つといえるであろう。2014 年11 月4 日には、日本で唯一
のモデルフォレストのメンバーである京都モデルフォレス
トにおいて、ベッソー事務局長を迎えてシンポジウムが開
催され、現在までのIMFN の成果や開始後7 年目に入っ
ている京都モデルフォレストの活動についての議論がなさ
れた。京都モデルフォレストは、民間企業のCSR の取り
組みや地域の森林整備協議会などのユニークな活動を軸
に、パートナーシップを拡げてきている。本報告では、こ
の分野でのIMFN の取り組みの成果と京都モデルフォレ
ストの活動内容と課題について紹介する。
A28 発電向け木質バイオマスの流通:宮崎県における林
地残材の事例
横田康裕
森林総合研究所九州支所
全国的に見ても木質バイオマス発電への取組が活発な宮
崎県を対象に、発電用木質バイオマスの安定確保に向けた
方策を検討するため、同県における発電用木質バイオマス
の中で最も発生量が多い「林地残材」(=未利用材)に注目
してその流通構造を明らかにした。林地残材の商流につい
ては、出荷者-集荷者-発電事業者が基本型であり、物流に
ついては、山元-集積拠点-チップ加工施設-発電施設が基
本型であるが、それぞれ地域の状況(既存の流通構造、発
電事業者の規模・地元との関係等)に応じて変化型がみら
れた。発電施設の本格稼働を目前に控え、多くの発電事業
者が原料確保を本格化させており、宮崎県北部では既に原
料獲得競争が激しくなっていた。このため、原料価格の上
昇がみられ、「未利用材」として発電所着価格7,000 円/生
トンが相場となりつつある。また、商流面で、発電事業者
が直接出荷者と取引する傾向や、物流面で、発電事業者が
積極的に山側に原料調達を働きかける動きが見られた。林
地残材の安定確保のための取り組みは、林業活動の振興に
よる発生量の増大と、採算性の向上、出荷者の拡大、商流
の整備・促進による利用可能量の増大とに分類された。
A29 沖縄県における住宅構造材の歴史的変遷に関する
一考察
知念良之1・芝正己2
1琉球大学大学院農学研究科・2琉球大学農学部
【背景・目的】戦後、沖縄の一般住宅構造の主流は鉄筋コ
ンクリート造(RC)で、木造率は僅かであった。2000年代
後半から木造一戸建て住宅の割合は増加し、2013 年には
13% に達した。本研究の目的は、住宅構造材の変遷を検証
し、今後の木造住宅の動向を考察することである。
【方法】沖縄県の林政分野や住宅に関する各種統計資料・
文献を収集し、時代毎に住宅や森林・林業に関する情報を
整理した。これを基に住宅構造材の変遷について分析を
行った。
【結果】琉球王国時代は木材自給を目指し、森林管理と利
用の両面で厳しい法整備が行われた。琉球処分後の混乱は
乱伐と森林の荒廃を招き、建築用材のほとんどを県外産に
依存した。沖縄戦において、戦時下の木材需要の逼迫に加
えて住宅の殆どが戦火により失われた。戦後、米国管理下
での独自の経済体制がとられ、民間貿易の再開と共にスギ
材が輸入され、木造建築が盛んになった。通貨がドルに切
り替ると、輸入代替や輸出振興のためにセメントや合板工
場への支援が行われ、これはRC 造振興に貢献し、木造住
宅関連産業は解体状態に陥った。近年の木造率増加はプレ
カット材や木材利用振興政策が背景にあると考えられる。
A30 木材の環境情報の伝達と木材輸送距離
藤原敬1,2
1一般社団法人ウッドマイルズフォーラム・2林業経済研究所
来るべき循環社会の中で再生産可能な木材は重要な役割
を果たす可能性をもっており、それに至る過程で、木材の
環境負荷と貢献に関する情報を市民社会・最終消費者とサ
プライチェーン等を通じて共有することが課題である。木
材の環境情報は、1)生産地における森林持続可能性に関す
るもの、2)供給過程における生産・輸送にかかる外部への
環境負荷の程度に関するものがある。前者については、森
林認証制度のサプライチェーン管理、合法性証明のガイド
ラインなどが提唱され、後者はカーボンフットプリントな
どが提唱さてきた。木材の輸送距離を環境負荷の説明変数
として利用するウッドマイルズ運動は上記2)のライフサ
イクル全体の情報のごく一部を対象としたものとしての制
約はあるが、他方で1)の情報の信頼性トレーサビリティ
の効率性にかかわる情報でもあり、重要な役割をもつもの
と考えられる。木材の需給を巡っては、市場のグローバル
化に対して、自給率向上・地域材住宅ブランド化など政策
面でのローカル化を推進する動きなどがある。これらのふ
まえた日本の消費木材の輸送距離の推移を推計し、環境評
価と政策評価の手法としてのウッドマイルズの可能性を検
討する。
A31 木材利用の勘定について
大津裕貴1・小池浩一郎2
1鳥取大学大学院連合農学研究科・2島根大学生物資源科学部
製紙・パルプ産業では従来のパルプや紙製品の生産に加
え、エネルギー製品や化学製品などを生産することに注目
している。これらの技術はバイオリファイナリーと呼ば
れ、一部の企業では研究・開発に意欲的な意見が聞かれる。
また、FIT制度の開始や木質バイオエネルギーへの期待の
高まりから各地で木質バイオマスを利用したエネルギー生
産施設が整備され始めている。これらのことから、森林資
源の利用においてマテリアルだけでなくエネルギーとして
の利用についても合わせて把握することが重要になるので
はないかと考えている。しかし、燃料用に利用されている
木材の量など既存の統計情報では把握しきれない部分が多
くある。これらの情報を把握し整理するためにも、森林資
源のマテリアル利用とエネルギー利用を合わせて記録する
ための何らかの枠組みを検討することは有効ではないかと
考えられる。そこで、本報告ではマテリアル/エネルギー
勘定について既存の研究を整理することでその表現方法に
ついて検討することを目的とする。
A32 ドイツ、バーデン・ヴュルテンベルク州の森林行政
とカルテル問題
石崎涼子
森林総合研究所林業経営・政策研究領域
[背景と目的]ドイツには、州有林管理と私有林や団体有
林の管理を一体的に行う統一森林行政の方式を長期にわ
たって採用してきた州が多い。ドイツ南部のバーデン・
ヴュルテンベルク州もその1つである。だが、この森林行
政の仕組みは、近年、改革を迫られている。2013年12 月、
連邦カルテル局は、バーデン・ヴュルテンベルク州におけ
る木材販売の仕組みがカルテル法に反するとし、改革を求
める決定を下した。本報告では、このカルテル問題に至る
議論の経緯と論点を明らかにすることを目的とする。[方
法]2014年9 月にバーデン・ヴュルテンベルク州で実施し
たヒアリング調査と関連する資料等を用いて分析した。
[結果]2013年末のカルテル法違反判決は、直接的には10
年前の製材業者による提訴に始まるが、それ以前から徐々
に展開してきた森林行政のあり方を巡る議論等とも関わり
があること、最初の提訴の後、木材共同販売の広がり等の
影響も受けながら議論が展開してきたこと、カルテル問題
によりドイツの森林行政の仕組みが大きく変わりつつある
ことなどが明らかとなった。