バイオマスエネルギーを積極的に推進する理由は

生活クラブ生協事業協同組合「生活と自治」2000年2月号より転載

 


この人にこれだけは聞きたい 、ケント・ニストローム会長、ケント・ニストロームさんに聞く

スウェーデンでは70年代からバイオマスの導入を進め、現在では一次エネルギーの19%をバイオマスでまかなっている。来日した同国のバイオエネルギー協会会長で、EUバイオエネルギー協会会長でもあるケント・二ストロームさんに、スウェーデンの経験と今後の戦略について聞いた。(インタビュアー・フリーライター・佐藤由美)


 熱需要を賄うのに最適

   − スウェーデンでは、20年も前からバイオマスの推進を図ってきたそうですね。

ケント スウェーデンでは、2度の石油危機を契機にエネルギ−消費を抑制し、その海外依存度を減らす政策がとられ、石油代替エネルギーとしてバイオマスの利用が始まりました。91年に炭素税が導入されると、その比率はさらに高まりました。90年以降、再生可能エネルギーの割合は年率0・6%ずつ増え、現在では一次エネルギーの35%に達しています。そのなかでバイオマスの比率は最も高く、19%を占めています。

  − EUでもバイオマスの比率を高めていく計画ですね。

ケント EUは97年に「再生可能エネルギー自書」を発表しました。内容は2010年までに再生可能エネルギーの比率を現在の6%から12%にするという野心的かつ現実的なものです。そのうちの70%をバイオマスが占めています。この計画を実現するために加盟各国は再生可能エネルギーの割合を毎年0・4%ずつ増やさなければなりません。さもないと京都会議で合意した温嗅化ガスの削減目標は達成されないでしょう。

  − 日本で再生可能エネルギーといえば、新エネルギーである風力と太陽光にばかり焦点が当てられています。

ケント 風力は一定の割合までは増えるでしょうが、それ以上の拡大は望めません。太陽電池のコストを削減するにはあと20年から30年はかかるでしょう。水力はすでに開発し尽くされ、これ以上増やすことはできません。したがって、短期的にはバイオマスが最も有望な再生可能エネルギーということになります。

  − なぜバイオマス利用がこれだけ進んだのでしょうか。

 ケント スウェーデンを含むヨーロツパのエネルギー需要は熱が50%、電気が25%、残りの25%の運輸部門に大別されます。エネルギーといえば電気ばかりに目が行き、熱需要は軽視されがちですが、バイオマスは最も大きな市場である暖房などの熱需要をまかなうのに最適です。スウェーデンでは、自治体による地域暖房施設の建設が進んでいます。製材所の端材や鋸くず、木の枚や間伐材などの林地残材など木質バイオマスを燃やして温水をつくり、配管を通して各家庭に暖房用の熱を供給するのです。こうした熱供給事業を行う自治体は現在112都市あります。人口がまばらな地域では各家庭でベレットという木質燃料を燃やすボイラーを設置して熱需要をまかなっています。

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不可能でない輸送部門の脱化石化

  − バイオマスの比率はどのくらいまで増やせるのですか。

ケント われわれはスウエーデンのバイオマスの利用可能量は20兆ワット時を超えており、そのうちの16兆は2020年までに利用されるようになると見込んでいます。現在の利用は9兆なので、あと56%は増やせます。現在、より効果的な炭素税の法案が政党間で議論されており、l年以内に法律が改正される見通しです。これによって省エネと再生可能エネルギーの導入がさらに進むでしょう。自治体レベルでも脱化石化が検討されており、201O年までに複数の都市で、石油や石炭をまったく使わない脱化石化が達成されるでしょう。

  − 熱や電気はともかく、輸送部門の脱化石化は難しいと言われていますが。

 ケント そのとおりです。が、ガソリンに代わるメタノールやエタノール、軽油に代わるバイオディーゼルもバネオマスからつくれます。麦わらからメタノールをつくる工場がすでに稼働しており、木質バイオマスからエタノールをつくる実験プラントもまもなく建設されます。複数の都市ではバイオマスをメタン発酵させてできるバイオガスを燃料にバスを走らせています。水素を燃料にした燃料電池の開発は世界的な課題であり、実用化が待たれます。これらを複合的に組み合わせれば、輸送部門の脱化石化も不可能ではありません。

  − 日本ではエネルギーが再生可能かどうかではなく、新エネルギーかどうかで助成金の金額が決まります。旧エネルギーであるバイオマスはエネルギーとして認知されていません。そのため日本で利用可能な森林資源はスウェーデンと同じですが、ほとんど利用されていません。

ケント 私の日本滞在中に国会が開会し、首相が所信表明演説を行っていました。そこにはエネルギーの持続可能性についての言葉も、京都会議の合意や地球温暖化対策も、エネルギーという言葉さえありませんでした。日本政府はこうしたことにまったく閑心がないようですね。地球温暖化防止会議は京都で開催されたので、日本はその目標達成に熱心だと思っていたのですが、6%の削減目標を原発20基の増設によって達成する計画だと開いています。原発を増設すれば、二酸化炭素の排出は抑えられますが、それは持続可能なエネギー政策とはいえません。

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欠かせない電力自由化と炭素税

 − スウェーデンでは1980人に原発に関する国民投票を受けて,2010人までに原発を全廃することを決めていますね。

ケント その一基が昨年11月に閉鎖されました。今後も順次閉鎖されていくでしょう。電気需要の半分は熱に変換できますし、バイオマスは熱だけでなく電気をつくることもできますから、再生可能エネルギーに転換することは可能です。

 − 日本でも再生可能エネルギーを推進するためにはどうしたらいいでしょうか。

ケント スウェーデンの経験からいえるのは、電力自由化と炭素税が欠かせないということです。再生可能エネルギーを普及させるためには、そのし価格が安くなければなりません。最も環境にやさしいエネルギーを最も安くするためには、環境に負荷を与えるエネルギーに税金を課し、その資金を再生可能エネルギーの導入に当てるべきです。難しいと思うかもしれませんが、それは単に教育の間題です。課税額は二酸化炭素の排出量に応じて決めればいいでしょう。スウェーデンでは石炭、石油、天然ガスの順に重くなっています。もちろんバイオマスはゼロです。

 − 再生可能エネルギーを普及させるために、私たち市民には何ができるでしょう。

ケント まず充分な情報を得ることです。私たちは、化石燃料は地球温暖化を引き起こす問題があること、そしてその開題は省エネルギーと再生可能エネルギーの導入によって解決できるということを、あらゆる手段を通して市民に伝える息の長いキヤンペーンを行ってきました。また、市役所や町役場には少なくとも1人のエネルギーアドバイザーがいて、クリーンエネルギーに転換したいという市民の相談を受け、具体的な助言をしてます。市民が充分な情報を与えられないまま、温暖化ガスを排出するエネルギーを消費することがあってはなりません。まず自分が使っているのはどんなエネルギーなのか知り、エネルギー源を選べるようにすべきです。

 − ありがとうございました。

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解説

バイオマス工ネルギー

農業や林業からの廃棄物、家畜の糞尿屋生ゴミなどの有機系廃棄物をバイオマスといいます。

欧米ではもっとも有望な再生可能エネルギーとして位置づけられている。 すでにEUでは2010年までに再生可能エネルギーの比率ををバイオマスを中心に6%か12%に高める計画を発表している.98年8月にはアメリカもバイオマスを現在の3倍にするという大統領令をを公布した。 バイオマスは燃焼せると二酸化炭素は排出される。しかし、植物はその生育中に空気中の二酸化炭素を吸収、国定しているので、燃やしても新規の排出はない。森林は成長の限界に達すると二酸化炭素の吸収能力が衰えるので、定期的な伐採が必要になる。その後に植林すれば、持続的に森林資源を利用できる。この考えに沿ってスウェーデンではバイオマスに対しては非課税税になっている。

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