「消費の道しるべ」投稿

 

林産物貿易・森林の持続可能な管理とTPP

藤原敬

社団法人全国木材組合連合会常務理事、ウッドマイルズ研究会代表運営委員、

 

(はじめに)

編集部からの求めに応じて林産物TPPとそれにまつわる貿易自由化の動きを筆者が身近にいる林産物貿易を通して、可能な限り消費者の視点にたって論じたい。筆者は木材産業の関連団体に所属しているが、当該団体の意見でなく、個人的な意見であることを申し添える。

 

(私たちの生活と林産物)

森林から生産される林産物は、木造住宅の骨組みや床・壁など生活空間を形づくっている木材、新聞や書籍のベースとなっている紙、シイタケなどの食用キノコ類など、さまざまな形で消費者の生活を支えている。木材だけとってみても日本の住宅の5割以上は木造住宅であり、さらに一昨年公共建築物の木材利用促進法が施行されたことにより、今後とも多様な建築物の構造や内装に、森林由来の再生可能で環境と人にやさしい木材が利用されていくことだろう。そして、その木材は約6割が海外から輸入され、4割が国産材である。(紙まで含めると日本人が使用する林産物由来の製品の3/4が輸入材由来)

 

(林産物の貿易自由化度)

農産物と違って林産物は1960年代にすべての貿易を自由化(関税以外の貿易規制を撤廃)し、貿易にかかる国境措置は一部の品目の関税が残るだけである。現在関税がかけられている品目は製材の一部、木材を接着剤で加工した合板(ベニヤ板)・集成材などであり、数パーセントの税率の関税が課税されているにすぎない。

 

(日本の消費者にとっての林産物関税)

TPPが経済連携協定であり、その目的が、経済障壁の除去による貿易拡大・投資機会の拡大ということであれば、輸入産品である木材がそれによってうける影響は、残る関税の撤廃である。仮にそれが実現した場合、消費者にとっては、住宅を新築する場合数千万円の建築費のうち一割程度の木材代金の1-2パーセント数千円から数万円安くなるという利益がある。一方で、国内の資源が充実してきていることから国産材の利用を高めていくことが、身近な資源の賢い利用や農山村地域の活性化といった課題からいっても大切な課題であり、「あえて、この時点でそれに逆行する関税撤廃は反対」というわかりやすい議論がある。消費者も、この二つを比較すると、後者に賛成する方が多いだろうが、TPP交渉参加の是非は、一商品分野の課税の是非で論じるべきではないだろう。

 

(グローバルな視点にたった連携のあり方)

再生可能な資源としての木材を持続可能に供給する体制を構築する課題は日本の消費者だけでなく地球市民にとっても将来に向けた重要な課題であることを考えると、TPPによる貿易自由化は、グローバルないくつかの課題を包摂している。

各国が自分の森林を適切に管理するには市場で取引される木材の価格が森林管理のコストをペイできるという状況を作る必要があるが、それは一国の努力ではできない課題である。典型的な例が違法伐採問題で、ある国から国内の法令も無視して安いコストの木材製品が作られて国際市場に輸出されると、当該国の森林が破壊されるだけでなく、不当に廉価な木材が輸出された相手国の森林管理まで影響を受けるという問題である。これは主として途上国の森林管理に関する議論であるが、先進国間でも類似の問題がある。カナダから米国に輸出される針葉樹製材品には二国間協定に基づいて輸出税が課税されている。カナダの立木(多くは各州が管理する公有林)の販売価格が安すぎるのでダンピングだと長い期間紛争になっていたものが、カナダ側もそれを認める形で二国間協定が締結されたものである。事実であれば米加間の話としてだけでなく、カナダの輸出先である日本や中国にとっても重要な話である。また、環太平洋沿岸の木材輸出国にはカナダ、マレーシア、ロシア、インドネシアなど原材料の輸出を禁止ないし高率の輸出税を課して輸入制限をしている地域が多いが、これは産地での原料の価格を人為的に廉価にする作用があり、製品の廉価輸出の原因になる。このような事態を放置したまま、輸入国の関税撤廃のみが進むと、輸出国と輸入国双方にとって森林の持続可能性を損なう可能性がある。

 

(バランスのとれたグローバル化のステップを。経済連携とともに社会連携)

林産物の貿易の事例から、貿易自由化の問題点を指摘したが、もちろんこの課題は特定産品だけの議論で結論を出す性格のものでないことは承知している。経済障壁をとりはらう経済連携に関する協議が進むことは必要なことであり消費者はそれによって利益を受けるだろう。ただし、それにともなう社会的な連携についての努力がついていかないと、さまざまな問題が生じ、長期的な消費者の利益を損ねる可能性がある。そのことを示す事例として消費者の皆さんの幅広い検討材料の一つとしていただければ幸いである。

 

(参考)

「持続可能な森林経営に関する勉強部屋」

http://jsfmf.net/